結論
撤退できるかどうかは、MOUやLOIに何が書かれ、当事者がどこまで拘束される意思だったかで決まり、文書の表題では決まりません。「MOUは拘束力がない」と決めつけないでください。MOUの中には完全な契約に当たるものがあり、大部分が拘束力を持たない場合でも、秘密保持、独占交渉、費用分担などの条項には拘束力があることが多いからです。
出発点は民商法典第366条です。当事者の一方が重要と表示した事項について全点の合意がなければ、疑義がある限りまだ契約はなく、一部の事項のみの了解は書面にしても拘束せず、意図する契約を書面にすると合意した場合は、書面になるまで契約はありません。したがって本契約に署名しないこと自体は、それだけでは契約違反にならないことが多いのです。しかし、拘束力ある条項、実際に支払った金銭、MOUに基づいてすでに行った行為によって、撤退後も義務が残ることがあります。
撤退通知を出す前に、次の順で確認してください。MOUがすでに契約になっていないか、どの条項が拘束力ありとされているか、金銭の移動や履行がすでにあるか。
1. MOUとLOIの違い、表題はどこまで重要か
MOUとLOIは、タイ法が特に定めた契約類型ではありません。実務ではMOUは双方が署名する文書、LOIは一方が関心と暫定条件を相手に示す書面であることが多いのですが、どちらも完全に拘束力を持たせることも、全く持たせないことも可能です。
裁判所は表題ではなく内容と意思を見ます。第171条は、意思表示の解釈では文言や文字よりも真の意思を重視するとし、第368条は、契約を信義誠実に、慣習も考慮して解釈するとします。価格、対象、引渡日、支払条件がそろったMOUは契約とみなされ得ますし、「契約」と題していても交渉の枠組みにすぎないと書かれていれば売買契約ではない可能性があります。
2. MOUそのものが契約になる場合と、交渉する合意にとどまる場合
三つに分けて考えます。
- 完全に拘束力のある契約。 重要事項(当事者、対象、価格またはその算定方法、主要条件)が合意され、文言から拘束される意思が読み取れる場合です。後に詳細な契約書を作る予定があっても、履行しなければ違反になり得ます。
- 交渉する合意。 一定期間誠実に交渉するとだけ合意した場合や、最終価格やデューデリジェンスの結果などの重要事項を未確定のままにした大枠の場合です。本契約への署名は義務づけられません。
- 混合型。 大部分は拘束力がなく、条項を列挙してそれらだけ拘束力ありとする形式です。ビジネスの案件で最も多い形です。
第366条が分析の出発点になります。文書の中で、ある事項を全点合意が必要な重要事項として示しながら未合意である場合や、本契約を書面にすると合意しながらまだ署名していない場合は、本契約がまだ成立していないと主張する根拠になります。ただし、MOU自身が拘束力ありと明記した条項まで消えるわけではありません。
最高裁の例として、判決588/2564は、一方当事者が賃貸ビルの事業を検討してから投資を決められるようにする覚書に関するもので、裁判所は拘束力のある契約と判断し、終了も契約条項または法律に従う必要があるとしました。この事件では、検討結果に満足できなければ投資側が終了できる条項があり、預けた保証金は没収できず返還が必要とされました。「覚書」でも本物の契約になり得ることを示しています。
3. 「契約書の締結を条件とする」「条項Xを除き拘束力なし」の効果
| 文言 | 通常の意味 | 確認事項 |
|---|---|---|
| 「正式契約の締結を条件とする」 | 本契約までは取引条件に拘束される意思がない | 他に拘束力ありとする条項があるか、その後の行動で状況が変わらないか |
| 「第5条、第6条、第8条を除き拘束力なし」 | 列挙した条項のみ拘束 | その条項が執行できるほど明確か |
| 「暫定的な了解にすぎない」 | 交渉段階の意思 | 数字や条件が契約といえるほど揃っていないか |
| 「当事者は〇月〇日までに正式契約を締結する」 | 契約締結義務か単なる目標か | 「する」か「予定する」か、期日後にどうなるか |
| 拘束力の有無の記載なし | 内容と意思を見る(第171条、第368条) | 重要事項の充足度、当事者の行動 |
こうした文言は解釈を明確にしますが、万能の防御ではありません。裁判所は文書全体と当事者の行動を見ます。
4. 条項別の一覧:拘束力の有無と確認事項
| 条項 | 通常の拘束力 | 確認事項 |
|---|---|---|
| 価格、対象、主要な取引条件 | 交渉の枠組みなら通常なし。契約とする意図があればあり | 全て特定されているか、空白か、拘束力の明記があるか |
| 手付金 | 本当の手付か、予約金か、前渡金かによる | 署名日に交付したか、没収条項の文言(第5章) |
| 交渉費用、デューデリジェンス費用 | 明確な費用分担条項があれば拘束 | 終了時の負担者、上限(第6章) |
| 秘密保持 | 拘束力を持たせ、終了後も続ける意図が通常 | 期間、範囲、情報の返還・廃棄(第7章) |
| 独占交渉(ノーショップ) | 定めた期間に限り拘束するのが通常 | 期間、範囲、違反の効果(第7章) |
| 本契約の期限(ロングストップ日) | 目標であることが多いが、期日でMOUが失効する場合もある | 期日後の扱い、延長の方法 |
| デューデリジェンスと情報開示 | 明確なら開示側を拘束 | 情報の範囲、利用ルール |
| 準拠法、裁判管轄、仲裁 | 他が拘束力なしでも、明記されていれば拘束することが多い | このMOUにも適用すると書かれているか |
| 終了条項 | 文言どおり拘束 | 通知方法と期間、存続する条項 |
5. MOUに基づく手付金は没収できるか。手付と前渡金の違い
法律上の手付。 第377条:契約を締結する際に手付として何かを交付した場合、その交付は契約が成立したことの証拠であり、契約履行の担保でもあります。第378条:別段の合意がなければ、手付は履行時に返還されるか代金の一部に充当されます。手付を交付した側が履行を怠った場合、その側の責めに帰すべき事情で履行が不能になった場合、またはその側の過失で契約が解除された場合は没収されます。受領した側が履行を怠った場合や責任を負う場合は返還されます。
MOUでの問題。 手付は「契約」と結びつく概念です。MOUが拘束力ある売買契約でなければ、MOUに基づく支払いは単なる予約金、交渉の担保金、前渡金にすぎない可能性があり、返還か保持かはMOUの条項で決まります。書面で「手付」と呼んでも、法律上の手付になるとは限りません。
手付に関する最高裁判例の例です。
- 判決2478/2565:契約で手付とされていても、署名日の後に交付された金銭は法定の手付ではなく、相手方に違反があっても受領者は没収できないとされました。
- 判決10316/2559:手付とは、署名日に交付され、契約の証拠と履行の担保になるものです。
- 判決7302/2559:売主が買主に正当な新しい期限を与え、買主が守らなかったため、売主は第378条(2)により手付を没収できました。
- 判決301/2563:裁判所は不公正契約条項法(仏暦2540年)第7条に基づき過大な没収を減額する裁量を持ちますが、必ず減額しなければならないわけではありません。
| 質問 | はい | いいえ |
|---|---|---|
| 支払時に拘束力のある契約があったか | 手付に当たる可能性が高い | 予約金や前渡金の可能性。返還・没収条項を読む |
| 署名日に交付したか | 手付の性質に合う | 法定の手付ではない可能性(2478/2565を参照) |
| 支払者が違反した側か | 別段の合意がなければ第378条(2)で没収可 | 返還が必要(受領者に非があれば第378条(3)) |
| 没収額が損害に比べて著しく過大か | 裁判所が減額する可能性(301/2563を参照) |
仮の例:AがMOUに基づく事業買収で20万バーツを支払い、「交渉の担保金。デューデリジェンスが通らなければ全額返還、Aが列挙した理由なく撤退した場合は没収」と記載されていました。これは売買契約に基づく支払いではないため、没収はMOUの文言と列挙された理由に左右されます。Aが隠れ債務の発覚を理由に撤退し、それがMOUの返還事由であれば、受領者は返還しなければなりません。
6. デューデリジェンス費用と交渉費用は誰が負担するか
通常は各自が自分の費用(弁護士、会計士、デューデリジェンス、出張)を負担します。MOUが何も定めていなければ、案件が破談になった後に相手方から回収するのは困難で、拘束力ある義務の違反や他の法的根拠を立証する必要があります。
MOUに書いておくべきこと。
- 誰がどの費用を負担するか、顧問を共通にするか別にするか。
- 終了時に、どの場合に相手方が償還または分担するか(列挙した理由のない撤退、虚偽情報の提供など)。
- 請求できる費用の上限と領収書の提出。
- 一方が費用を負担したデューデリジェンス報告書を他方が使う場合の分担。
7. 秘密保持と独占交渉は撤退後も続くか
秘密保持。 通常は情報交換の開始から拘束し、交渉が終わった後も数年など一定期間続くよう書かれます。MOUの他の部分が拘束力を持たなくても、この条項が拘束力ありとされていれば効力があります。撤退しても免れません。何が秘密か、例外(すでに公知の情報、当局の要請による開示)、期間、情報の返還・廃棄を確認してください。
独占交渉(ノーショップ)。 通常は期間が限られ、たとえば60日や90日(仮の数字)の間、売主は他の買い手と交渉できません。期間満了または合意した終了で終わるのが通常です。終了後も続くと書かれている場合は、期間と範囲が合理的か、違約金や損害賠償額の予定があるか、あるならば過大でないかを確認します。
実務上の注意点。
- 撤退後は相手方の情報の使用をやめ、第三者に渡さないこと。
- 売主側であれば、MOUの他の部分が拘束力を持たなくても、独占期間中は他社と交渉を始めないこと。
- どの情報をいつ渡したかの記録を残すこと。
8. 不誠実に交渉を打ち切った場合の責任
タイ法には、契約締結前の交渉における誠実義務を定める一般規定はなく、不誠実な交渉打ち切りによって常に責任が生じるという確立した原則もありません。
関連する条文は次のとおりです。
- 第5条:権利の行使と債務の履行は、誠実に行わなければならない。
- 第368条:契約は誠実な意思に従い、慣習を考慮して解釈する。
- 第171条:文言よりも真の意思を重視する。
これらは権利の行使、契約の履行、解釈に関する規定です。MOUに、誠実に交渉する義務や独占交渉のような拘束力ある条項があれば、それに反する打ち切りは契約違反になり得ます。MOUに拘束力ある条項が全くない場合に、相手が交渉を打ち切ったことだけを理由に損害賠償を求めるには、立証可能な別の法的根拠が必要です。事案ごとに判断され、結果は不確実です。
実務上、撤退する側は説明できる理由を持ち、手順に従って通知すべきです。影響を受ける側は、相手の言動を信頼して支出した費用や行為の証拠を残してください。
9. どのような行為でMOUが拘束力を持つようになるか
MOUが拘束力なしと書いていても、当事者の行動で状況が変わり得ます。裁判所は真の意思を見るからです(第171条)。
- 取引の履行を始めた場合:商品の引渡し、従業員や業務の移管、経営への関与。
- 予約金や交渉費用ではなく、代金や対価に見える支払い。
- 両者が顧客、銀行、当局などの第三者に取引成立と伝えた場合。
- 留保なしのメールやメッセージで主要条件を完全に合意した場合。
- 契約があるかのように扱い合った場合。たとえば一方が準備のために借入や採用を行い、相手がそれを知りながら異議を述べなかった場合。
未合意の事項がある場合や書面にする合意があった場合、第366条は引き続き相手方の主張になり得ます。実際の履行は裁判所が重みを量る事実であり、自動的な答えではありません。
10. 適切な撤退の手順
- MOUを全部読む。 拘束力、終了、通知、秘密保持、独占交渉、費用、紛争解決の条項を確認します。
- 事実を集める。 支払・受領した金銭、渡した情報、条件の合意や拒否を示すメール、信頼して行ったこと。
- MOUに合う理由を選ぶ。 たとえばデューデリジェンスの結果が合意条件に合わない、合意に至らず期間満了、定められた承認が得られない、など。MOUが理由なしの撤退を認めているなら、その権利を使います。
- 書面で通知する。 MOUが定める宛先と方法で送ります。対象のMOU、撤退日、根拠条項を明記し、受領確認を求めます。送達の証拠を保管します。
- 受領した情報を返還または廃棄する。 使用しないことを書面で確認します。
- 金銭と費用を整理する。 予約金や前渡金の返還を求めるか、条項に基づき返還できない理由を示し、費用分担をMOUの定めどおり精算します。
- 存続する条項を確認する。 秘密保持や有効な独占交渉など、後の紛争を避けるためです。
- 送る前に弁護士に文面を確認してもらう。誇張した表現は証拠として使われる可能性があります。
11. よくある失敗
- 表題だけを見てMOUに拘束力がないと思い込む。
- 署名日の後に払った金銭を「手付」と呼び、没収できると考える。
- 本契約の前に、返還や償還の取り決めなしに金銭を払ったり作業を始めたりする。
- 秘密保持契約に署名する前に機密情報を送る。
- 独占交渉の期間を定めない。
- 破談時のデューデリジェンス費用や顧問費用の負担者を書かない。
- 書面通知をせず、連絡を絶つか電話だけで撤退する。
- 拘束される意思がないのに「この案件は決まりました」とメールする。
12. MOU署名前の起案チェックリスト
- 文書に拘束力があるか、どの条項に拘束力があるかを明記する(例:「第〇条を除き拘束力なし」)。
- 完全に拘束させたい場合は、重要事項(価格、対象、条件、日付)をすべて盛り込む。
- 本契約は書面で、権限のある署名者が署名すると明記する(第366条を参照)。
- 支払金の性質(手付、予約金、前渡金)、支払日、返還・没収の条件を書く。
- デューデリジェンス費用と交渉費用の負担者、終了時の償還、上限を定める。
- 秘密保持の範囲、例外、終了後の期間、情報の返還を定める。
- 独占交渉の期間と範囲、違反の効果を明確にする。
- MOUの有効期限、期限後の扱い、延長の方法を定める。
- 終了の方法、通知期間、存続する条項を定める。
- 準拠法と紛争解決の方法を選ぶ。
- 署名者に会社を拘束する権限があるか確認する。
- 署名前に弁護士の確認を受ける。
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MOUに拘束力があるかどうかは、表題ではなく、文言、当事者の意思、これまでに行った行為で決まります。撤退する前に、拘束力ありとされた条項、支払った金銭、渡した情報を確認し、書面で通知してください。
当事務所は、MOU・LOIの起案と審査、拘束力のある条項の特定、撤退通知や相手方への回答書の作成、本契約までの交渉支援を、タイで事業を行う方に提供しています。初回相談をご希望の方は、+66 92 254 2045 までお電話いただくか、詳細をお送りください。あわせて契約書・書類、ジョイントベンチャーもご覧ください。
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