競合他社からオファーを受けたものの、雇用契約には「退職後2年間は競合先で働かない」とあります。あるいは、そのような条項を定めた使用者として、本当に有効なのか知りたい。この問いは一つの問題として扱われがちですが、法律上は少なくとも4つに分かれます。競業避止、営業秘密、顧客・従業員の勧誘禁止、そしてデータの持ち出しです。根拠、判断基準、結果がそれぞれ異なります。
本ガイドは競業避止そのものと、4つの切り分けに絞ります。すでに顧客リストが流出した場合は元従業員による顧客リスト持ち出しのガイドを、在職中に副業で競合する場合は利益相反のガイドをご覧ください。
結論
原則として、退職した人はどこで働くのも自由です。競業避止は契約に基づく例外であり、裁判所は公正かつ相当な範囲でのみ効力を認めます。営業秘密、顧客の勧誘禁止、データの持ち出しは別の問題です。転職先が競合であること自体は許されても、ファイルや顧客リストを持ち出せば違反になり得ます。
法的根拠 不公正契約条項法(仏暦2540年)第5条は、職業・事業の自由を制限する条項で、制限される側に通常予見できる以上の負担を課すものは、公正かつ相当な範囲でのみ有効と定めています。労働保護法(仏暦2541年)第14/1条は、雇用契約中の不公正な条項を検討するもう一つの手がかりです。営業秘密は営業秘密法(仏暦2545年)が規律し(定義は第3条、侵害は第6条、差止めは第8条)、違約金は民商法典第379条から第383条、顧客の個人情報は個人情報保護法(仏暦2562年)の対象です。
当事務所の実務的な見方 期間・地域・業務のすべてが広い競業避止は、使用者にとって最も弱い手段であり、従業員が必要以上に恐れがちなリスクです。反対に、使用者が立証しやすく、従業員がしばしば誤るのはファイルの持ち出しです。従業員は転職先の社名よりデータの持ち出しに注意すべきであり、使用者は広い競業避止よりも、秘密保持と範囲を絞った勧誘禁止に力を注ぐべきです。
仮想事例 ブアさんはコンケンの農業機器卸会社の営業主任で、タイ東北部上部の小売店を担当しています。雇用契約には、タイ全土で「類似事業」への就業を2年間禁じる条項と、一括金の違約金があります。ウドンターニーの競合他社から誘いを受け、検討中に見積書と卸価格表を「参考用」に私用メールへ送りました。以下ではこの事例を使い、元の勤務先を「会社」と呼びます。
1. 退職後に競合他社へ転職できますか
契約に制限がなければ可能です。仕事で得た一般的な知識、技能、経験は従業員自身のものであり、使用者の秘密ではありません。
競業避止条項がある場合、それは自動的に有効にも無効にもなりません。裁判所は不公正契約条項法第5条により、次の要素を見ます。
| 要素 | 裁判所が問う点 |
|---|---|
| 期間 | 保護すべき情報や顧客関係の寿命より長くないか |
| 地域 | 使用者が実際に競争している範囲に合っているか、それより広くないか |
| 事業範囲 | 現に競合する業務に限っているか、業界全体を禁じていないか |
| 従業員の地位 | 本当に重要情報や主要顧客に関わっていたか。重要情報のない一般職は制限しにくい傾向がある |
| 補償 | 禁止期間中の支払いがあるか、他で生計を立てられるか |
| 保護する利益 | 使用者が投資した秘密や関係を守るものか、単に競合を排除するものか |
裁判所は条項全体を無効にするのではなく、一部または公正な範囲でのみ効力を認めることがあります。どこまで縮減されるかは事前には言えません。労働保護法第14/1条は、雇用条項が不公正だと主張する別の手がかりを加えますが、結果は個別の事情によります。
事例では、ブアさんの条項は全国と「類似事業」を対象にしていますが、会社の販売先は東北部上部です。裁判所は範囲を縮減する可能性が高いでしょう。ただし新しい仕事がウドンターニーで同じ商品を同じ小売店に売ることであれば、リスクは残ります。ブアさんが自分で「無効だ」と結論づけるのは避けるべきです。
2. 切り分けるべき4つの義務
| 義務 | 何を守るか | 根拠 | 典型的な救済 |
|---|---|---|---|
| 競業避止 | 一定の期間・地域で従業員が競合先で働くこと | 雇用契約または別の合意。不公正契約条項法第5条により公正かつ相当な範囲でのみ有効 | 履行請求または損害賠償、約定の違約金(裁判所が減額し得る)、差止めは認められにくい |
| 営業秘密 | 一般に知られておらず、秘密であるがゆえに商業的価値があり、合理的な秘密管理措置がある情報(第3条) | 営業秘密法(仏暦2545年)および秘密保持契約。競業避止がなくても適用される | 侵害の差止めと損害賠償(第6条、第8条)。仮の命令は明白な証拠がある場合のみ |
| 顧客・従業員の勧誘禁止 | 就労自体は禁じず、使用者が投資した顧客関係とチームを守る | 契約。公正かつ相当な範囲でのみ有効。生計への制約が小さいため競業避止より認められやすいが、保証はない | 履行請求と損害賠償、接触の停止命令、約定の違約金 |
| 個人情報とデータの持ち出し | 顧客・従業員の個人データを目的外に使わせない | 個人情報保護法(仏暦2562年)、管理者の義務(第37条)、社内のセキュリティ方針。権限なくシステムへアクセスした場合はコンピュータ犯罪法の可能性も | 個人情報保護委員会事務局への申立て、損害賠償、懲戒処分 |
この表は次のように読みます。第1行と第3行は「どこで働けるか、誰に接触できるか」への答え、第2行と第4行は「何を持ち出せるか」への答えです。競業避止で勝っても営業秘密で負けることがあり、その逆もあります。
3. データの持ち出し:私用メールへの転送、顧客リストの複製
退職直前によく見られる行為は3つあります。私用のメールやアプリへのファイル転送、顧客リストのUSBメモリへのコピー、システム画面の撮影です。いずれもシステムのログに痕跡が残り、ログが決定的な証拠になることが多くあります。
- 営業秘密 ファイルが第3条の要件を満たす場合、同意なく持ち出す、または使うことは、第6条の侵害になり得ます。全従業員が見られ、秘密保持契約もないリストは、秘密と主張しにくくなります。詳しくは元従業員の顧客リストのガイドをご覧ください。
- 個人情報 個人である顧客の氏名、電話番号、購入履歴は個人データです。会社は管理者として、PDPA第37条のセキュリティ義務を負います。従業員が無断で社外へ持ち出すと、会社はインシデントのリスクを負い、本人も会社やデータ主体に対して責任を問われる可能性があります。HR向けPDPAガイドをご覧ください。
- コンピュータ犯罪法 コンピュータ犯罪法(仏暦2550年)第5条から第7条は、アクセス保護のあるシステムやデータへの権限のないアクセスを扱います。自分のログインを通常どおり使ってファイルを送る行為は、これらの要件に当たらない場合があります。退職後も旧い認証情報でログインし続ける、付与されていない領域に入る行為はリスクが高くなります。このため主要な主張にすべきではなく、使用者が圧力のためだけに通報するのも避けるべきです。
一部の従業員は「自己防衛」のためにファイルを保管します。たとえば時間外労働を指示された証拠です。選ぶのは自分の権利に関する書類、つまり給与明細、契約書、解雇通知、自分宛てのメッセージに限ってください。顧客ファイル、価格、社内報告書は持ち出さないでください。紛争の証拠としてどうしても必要な場合は、先に弁護士へ相談してください。
事例では、ブアさんが見積書と卸価格表を私用メールに送った行為は、使っていなくても競合先で使う準備と読まれ得ます。競業避止よりも大きな争点になる可能性があります。
4. 競業避止条項の違約金:裁判所は減額できます
競業避止には、違反時に支払う約定の金額、すなわち違約金が付くことがよくあります。枠組みは民商法典第379条から第383条です。
- 第379条から第381条 債務者は、履行しない、または適切に履行しない場合に違約金を支払うと約束でき、両者で効果が異なります。債権者が履行を受領した場合は、受領時に違約金の請求権を留保しなければ、権利を失うおそれがあります(第381条第3項)。
- 第383条 違約金が不相当に高額な場合、裁判所は相当な額に減額できます。その際、債権者の財産的利益に限らず、あらゆる正当な利益を考慮します。
実務上の注意点です。
- 裁判所はまず競業避止自体が有効と認める必要があります。違約金はその条項の違反に付随します。裁判所が制限を縮減すれば、違約金は残った範囲にのみ及びます。
- 職位や予見できる損害と無関係な一括金は、理由をもって算定した金額より減額されやすくなります。
- 使用者が最終給与から違約金を勝手に差し引くことは簡単にはできません。労働保護法第76条が賃金控除を制限しているためです。研修費返還契約のガイドにも同じ論点があります。
5. 退職前に従業員がすべきこと
まず雇用契約と就業規則を最初から最後まで読み、競業避止、勧誘禁止、秘密保持、違約金を確認します。そのうえで次の項目に従ってください。引き継ぎ不備は別の問題です。引き継ぎなしで退職する従業員のガイドは使用者側の視点ですが、会社が何を確認するかの参考になります。
- 返却する 端末、カード、鍵、紙の書類を返却し、ITまたは人事と協力してアクセス権を削除してもらいます。双方が署名した引き渡し記録を残します。
- ファイルを転送しない 私用メール、LINE、クラウドへは送らず、システム画面も撮影しません。端末に私物のファイルが混在している場合は、持ち出す前に許可を得ます。
- 保管するものを書面で記録する 契約書や給与明細など、自分の権利に関する書類を保管する必要があるなら、書面で一覧にして人事に知らせます。
- 記憶から体系的に再現しない 顧客リストを記憶から表に書き起こして新しい勤務先に渡すことは、コピーと同じリスクがあります。
- 新しい勤務先に率直に伝える 競業避止や勧誘禁止がある場合は、受諾前に弁護士に読んでもらい、顧客を連れて来られると新しい勤務先に思わせないでください。
- 前の顧客に連絡して移そうとしない 勧誘禁止が有効な間は控え、顧客から連絡があっても慎重に対応します。
6. 使用者が現実に実行できる範囲と条項の書き方
使用者は、書く前に「何を、誰から、いつまで守るのか」を考えるべきです。全従業員に同じひな形を使うのは避けてください。
- 最も実行しにくいもの 全国、業界全体、数年間にわたり、補償なしに全職位へ課す禁止。
- 見込みはあるが保証はないもの 従業員が実際に担当した顧客への短期の勧誘禁止、従業員の引き抜き禁止、情報の種類と返却方法を明記した秘密保持条項、上位職に限り、地域と期間を絞り、禁止期間中の補償を伴う競業避止。
- 問題発生後に必要なもの システムのアクセスログ、持ち出されたファイルの一覧、署名済みの引き渡し記録、速やかに送付した通知書、情報が実際に使われた証拠。
条項例(範囲を絞った例です。実際の職位と事業に合わせ、使用前に弁護士の確認を受けてください)
第__条 雇用終了後の顧客・従業員の勧誘禁止
1. 雇用終了から___か月の間、従業員は、雇用終了前12か月の間に
担当した、または重要な情報を知った顧客に対し、会社と競合する
商品またはサービスを提案する目的で接触しない。
(顧客リストは別紙Aとし、会社が書面で更新する。)
2. 同じ期間、従業員は、会社の従業員に退職して従業員自身または
新しい使用者のもとで働くよう働きかけない。
3. 本条は、従業員が他の使用者のもとで働くことを妨げない。
また、従業員から勧誘なく連絡してきた顧客との取引も、会社の
秘密情報を使用しない限り妨げない。
4. 卸価格表、原価、別紙Aの顧客リストなどの秘密情報は、雇用終了から
7日以内にすべて返却し、複製を削除し、書面で確認する。
5. 違反した場合の違約金は___とし、当事者は、これが損害の合理的な
見積りであることに合意する。民商法典第383条に基づく裁判所の
減額の判断を妨げない。
6. 本条は、第4項の情報に接する____の職位にのみ適用する。
上位職に本格的な競業避止を課したい場合は、相当に短い期間を設定し、現に競合する地域と業務を特定し、禁止期間中の補償を検討してください。何を守るのかを説明できる狭い条項は、汎用の書式から写した条項より第5条の審査を通る可能性が高くなります。問題が起きたら、最初に提訴するのではなく、懸念を示す書面を送り、データの返却と削除を求め、第3項で述べた証拠を保全してください。
7. チェックリスト
退職を予定している従業員向け
- 契約と就業規則を全文読み、競業避止、勧誘禁止、秘密保持、違約金の有無を把握する
- 明確な制限がある場合は、競合先のオファーを受ける前に弁護士に確認してもらう
- 端末、カード、書類、システムのアクセス権を返却し、署名済みの引き渡し記録を残す
- ファイルを転送せず、顧客リストを複製せず、システム画面を撮影しない
- 保管する書類は自分の権利に関するものに限り、書面で一覧にする
- 前の顧客に連絡して移そうとせず、同僚を勧誘しない
制限条項を作成する使用者向け
- 秘密保持、勧誘禁止、競業避止を別々の条項にする
- 競業避止は重要情報に接する職位、短い期間、現に競合する地域に限定する
- 禁止期間中の補償を検討し、違約金を予見できる損害に見合う額にする
- 秘密情報の台帳、アクセス制限、システムログを整備する
- 資産の返却、アクセス停止、削除の書面確認を含む退職手続を設ける
- 会社自身の顧客データの収集・利用がPDPAに適合しているか確認する
関連ガイド
- 元従業員の顧客リスト持ち出し — リストが流出済みで、会社が証拠を集める場合
- 競合する副業・利益相反 — 在職中の制限
- 研修費返還契約と退職 — 違約金、賃金控除、裁判所による減額
- HR業務のためのPDPA — 会社が保有する従業員・顧客データ
- 引き継ぎなしの退職 — 引き継ぎ、端末の返却、アクセス停止
- 人事書類サービス — 条項、就業規則、退職手続
競合他社への転職そのものは違法ではありませんが、従業員が最もつまずくのはデータの持ち出しであり、使用者が最も負けやすいのは広すぎる条項です。
当事務所は、従業員の契約と制限条項の確認を転職の判断前にお手伝いし、使用者の秘密保持条項、勧誘禁止条項、退職手続を、法が許す範囲で狭く実効性のある形に整えるお手伝いをします。初回相談をご希望の方は、+66 92 254 2045 までお電話いただくか、詳細をお送りください。あわせて人事書類と労働法もご覧ください。
本ガイドはスワンワラ法律事務所(コンケン県の法律事務所、1986年設立)が発行したものです。一般的な情報であり、特定の事項に関する法的助言ではありません。

