金曜の夕方、上司がチームのLINEグループに「見積書のファイルが間違っている。今夜中に直してください」と投稿しました。従業員は「はい」と返信し、自宅で午後9時30分まで作業しました。翌日、残業代を求めると上司は「チャットに返信しただけで、出社はしていないよね」と答えました。指示が職場から携帯電話に移るにつれ、この問いは増えています。何が労働として扱われ、何を立証すべきかを双方が知っておく必要があります。
本ガイドは、勤務時間外にチャットで出された指示だけを扱います。未払額の確認方法や回収手続き全体は未払賃金と残業代を、労働監督官と裁判所のどちらを選ぶかは労働監督官か労働裁判所かをご覧ください。
結論
退勤後や休日にLINEで出された指示は、実際に使用者の業務であり従業員がそれに従って作業したのであれば、口頭の指示と同じく時間外労働になり得ます。除外される職位でない従業員は残業代を請求できます。結論を左右するのは条文よりも証拠で、誰が、いつ指示し、実際に何時間働き、どんな成果が出たかです。
法律上の整理 労働者保護法 B.E.2541 第23条は通常の労働時間を1日8時間以内、合計で週48時間以内とします(健康に有害となり得る業務は1日7時間、週42時間)。第24条は、そのつど事前の同意がなければ平日の時間外労働を禁じ、第61条は時間外手当を1.5倍以上、第62条は休日労働の賃金、第63条は休日の時間外労働を3倍以上と定めます。第65条・第66条は一部の職位を除外します。労働者保護法(第8号)B.E.2566で加わった第23/1条は、職場外での勤務と時間外の連絡を拒む権利に関する規定です。電子メッセージは、電子取引法 B.E.2544 第7条・第11条により証拠として使えます。
当事務所の実務的な見方 「LINEの返信は残業か」と問うのではなく、次の3点を確認してください。業務の指示や依頼があったか、実際に何時間作業したか、それを裏付ける成果物があるか。3点に答えられれば、多くは計算の問題になります。使用者が黙るか、指示をしていないと否認する場合は、手元に残ったチャットが最も重要な証拠です。
仮想事例 コンケンの家具店で営業事務をするピムさん(月給18,000バーツ、通常勤務08:30〜17:30)に、金曜の19:40、上司がLINEで今夜中に見積書ファイルを直すよう依頼しました。ピムさんは「はい」と返信し、20:00〜21:30に作業して、スクリーンショット付きでファイルを返送しました。以下、この例で説明します。
1. 上司は時間外に指示できるか。断れるか
平日(第24条) 使用者が時間外労働を命じられるのは従業員の同意がある場合で、同意は「そのつど事前に」必要です。雇用契約に「会社が命じるときはいつでも残業に同意します」と書いてあっても、そのつどの同意ではないとして争われるおそれがあります。例外は三つで、止めると業務に損害が出る継続作業、緊急作業、省令で定めるその他の作業であり、いずれも必要な限度でのみ認められます。
休日(第25条) 休日労働は、継続作業、緊急時、法が列挙する事業(ホテル、興行施設、運送、飲食店など)を除いて禁止され、生産・販売・サービスのために必要な範囲で、そのつど事前に従業員の同意を得て行えます。
連絡を拒否する権利(第23/1条) 労働省が公表する条文を読むと、次のように整理できます。使用者と従業員は、従業員が自宅やどこからでもIT経由で働くことを合意できます。合意は書面、または後から開ける電子データで行い、労働時間、時間外労働、職務範囲、機器の費用などを定められます。通常の労働時間が終わったとき、または指示された業務が終わったとき、従業員は、事前に書面で同意していない限り、使用者や上司とのいかなる形の連絡も拒否できます。
注意点が二つあります。第一に、この条文は合意に基づき職場外またはIT経由で働く従業員を想定しており、そのような合意のない通常の事務所勤務者にも適用されるかは文言から明確ではなく、裁判所が判断する可能性があります。事実関係を確認せずにこの権利を主張しないでください。第二に、連絡を拒否する権利と報酬を受ける権利は別です。従業員が時間外に働くことに応じた場合、第61条・第63条の割増賃金は別途検討されます。
事例では、ピムさんは「はい」と返信しており、その場限りの同意と見られ得るため、使用者が「指示していない」と言うのは難しくなります。
2. 割増率はいくらで、どう計算するか
| 場面 | 最低割増率 | 条 |
|---|---|---|
| 通常の平日の時間外労働 | 時間当たり賃金の1.5倍 | 61 |
| 休日賃金を受ける従業員の休日労働 | 賃金にさらに1倍以上を加算 | 62(1) |
| 休日賃金を受けない従業員の休日労働 | 2倍以上 | 62(2) |
| 休日の時間外労働 | 3倍以上 | 63 |
月給制の場合、第68条により、時間当たり賃金は月給を30と1日の平均通常労働時間の積で割って求めます。支払期限は第70条が定めます。
ピムさんの場合、月給18,000バーツ、通常労働は1日8時間です。時間当たり賃金は18,000÷(30×8)=75バーツ。平日の時間外1.5時間は75×1.5×1.5=168.75バーツ。同じ作業が休日で、休日賃金を受ける立場であれば、休日の時間外は少なくとも75×3×1.5=337.50バーツです。これは計算式を示す例にすぎません。実際の算定基礎は、他の定期支給が賃金に含まれるかで変わります。
3. 残業代が出ない職位と、それでも受け取れるもの
第65条は、次の者について第61条・第63条の時間外手当を除外します。
- (1) 使用者に代わって採用、報奨、解雇を行う権限を持つ従業員
- (2) 歩合による訪問販売・勧誘の業務
- (3)〜(9) 鉄道運行業務、水門の開閉、水位の観測、消火・公共の危険の防止、場所の外で行い固定時間を定められない業務、通常の任務ではない夜警、その他省令で定める業務
それでも受け取れるもの (3)〜(9)の業務の従業員は、働いた時間につき通常の時間当たり賃金に相当する金銭を受けられます。第66条は、(1)に当たる従業員は、使用者が支払いに同意しない限り、第62条の休日労働の賃金を受けないとしています。また第65条は、使用者が時間外手当や休日の時間外手当を支払う合意をすることを認めており、契約や就業規則が定めていれば、その通りに支払わなければなりません。
「主任」「課長」「管理職」という言葉自体は除外事由ではありません。裁判所は肩書きではなく、その人が実際に使用者に代わって採用、報奨、解雇する権限を持つかを見ます。事例のピムさんは採用・解雇の権限がない営業事務なので、第65条(1)には当たりません。
4. どんな証拠が有効か、業務と短い返信の違い
LINEのメッセージは電子データです。電子取引法第7条は、電子的な形であることだけを理由に法的効力を否定することを禁じます。第8条は、意味が変わらずに参照できるデータを書面とみなします。第11条は、電子データであることだけを理由に裁判所が証拠として採用しないことを禁じ、作成・保存・伝達の方法に基づく信頼性で重みを判断させます。そのため、証拠は欠けがなく、改変されていないことが重要です。
| 証拠 | 何を示すか | 保存方法 |
|---|---|---|
| LINEの指示 | 誰が、いつ、何を、期限つきで指示したか | 名前、日付、時刻、前後のメッセージが見える形で会話全体を撮影する。1行だけにしない |
| 返信の時刻 | 従業員がいつ受諾し作業を始めたか | 開始時刻つきの了解メッセージと、終了時刻つきの納品メッセージを送る |
| 成果物ファイル | 実際に行った作業 | ファイル、ファイル名、更新日時の情報、送信メールを保管する |
| 残業の承認 | そのつどの同意と使用者の認識 | 上司にメッセージで確認してもらう、または残業申請書を使う |
| タイムカード・入退室記録・勤務表 | 通常時間(超過分の基準) | 人事に写しを依頼し、なければ毎日の記録を自分でつける |
| 通話履歴 | 電話での指示や時間外の会議 | 通話履歴と通話時間を撮影し、話した内容を書き留める |
| 勤務時間の告示・就業規則 | 通常時間と残業の申請方法 | 就業規則の写しを保管する |
業務と短い返信の違い 法は最低何分という基準を置かず、裁判所は事案ごとに事実を見ます。一般には次のとおりです。
- 通常は残業として扱いにくいもの 「承知しました」のような短い了解、メッセージを開くこと、数秒で済む質問への回答
- 通常は業務にあたるもの ファイルの修正や書類の作成、情報を調べての顧客対応、複数人との継続的な調整、長時間の電話や指示のための会議。常時返信できるよう待機させられる場合は、事実関係と合意に応じて個別に判断されます。
- 判断が分かれるもの 短くて頻繁なメッセージが合計で長時間になる場合。時間帯と内容を記録し、実際の指示と作業であって雑談でないことが分かるようにします。
他人の携帯電話、アカウント、チャットに権限なくアクセスして証拠を探してはいけません。違法となるおそれがあります。自分が受信したメッセージや自分が参加するグループだけを使い、勤務記録は人事を通じて求めてください。
5. 書面で残業承認を求めるメッセージ
時間外の指示を受けたらすぐに送り、そのつどの同意と承認を残します。文言は組織に合わせて調整してください。
(上司の名前)様
__日__時に依頼いただいた「____」について、通常の勤務時間外ですが、
今回に限り対応いたします。所要時間は約__時間(__時〜__時)の見込みです。
このメッセージ上で、次の2点をご確認ください。
1) 上記の作業について、時間外労働/休日労働を承認すること
2) 社内規程に基づく時間外手当の対象とすること
完了後、このチャットにファイルを送り、実際の終了時刻をお知らせします。
丁寧で指示に逆らわず、使用者に書面での承認か拒否を求める文面です。使用者が承認しないと返した場合は、作業するかどうかを決める前に相談してください。使用者の指示や認識なしに行った作業は、残業代の立証が難しくなるためです。
6. 支払われない場合の利息と期間制限
- 利息(第9条) 第70条の期限までに時間外手当、休日労働の賃金、休日の時間外手当を支払わない使用者は、年15%の遅延利息を負います。
- 追加金(第9条第2項) 使用者が正当な理由なく故意に支払わない場合、期限から7日経過後、7日ごとに未払額の15%の追加金が加算されます。利息とは別で、故意の不払いの場合に限られます。
- 期間制限 賃金請求は民商法典第193/34条の2年の期間に服し、支払期ごとに数えます。長く未払いなら早めに請求してください。数え方や期間が中断される事情は未払賃金と残業代のガイドを参照してください。
請求は、上の表の証拠を集め、1回ずつ計算し、使用者に書面で請求し、そのうえで手段の選び方に沿って労働監督官への申立てか労働裁判所への提訴かを選ぶ順で進めます。初めて裁判所に行く場合は初めての労働裁判所ガイドを参照してください。使用者が和解や一時金を提示してきたら、署名の前に一時金による労働和解の確認を読んでください。結果は事実関係と裁判所の判断によって決まり、金額をお約束することはできません。
7. HR・使用者向け:時間外チャットの方針と承認フロー
上司が自由にLINEで指示する状態は、気づかない未払い残業と、紛争時に証拠となる記録という二つのリスクを生みます。よい方針には次の要素があります。
- 経路と時間帯を定める 業務指示にどの経路を使うか、時間外は列挙した緊急事項にのみ使えることを明記します。
- 事前承認のフロー 上司が依頼し、従業員がそのつど同意し、HRまたは承認権者が承認してから作業を始めます。第24条第2項の緊急の例外に当たる場合を除きます。
- 実労働時間を記録する 従業員が開始・終了時刻を入力し、上司が確認し、同じ給与サイクルで給与計算に反映される様式やシステムを使います。
- 割増率どおりに支払う 第65条・第66条に本当に該当する職位かを確認します。肩書きだけでグループ全体を除外しないでください。
- 職場外で働く従業員 第23/1条の合意をする場合は、書面または参照可能な電子データにし、勤務時間、時間外労働、時間外連絡のルールを定めます。連絡への同意は事前かつ書面で得ます。
- 正当な拒否を理由に不利益を与えない 時間外チャットに返信しなかったことを理由に評価を下げたり異動させたりすると、不当な取扱いの紛争になり得ます。
- データは慎重に扱う 勤務記録や業務チャットには従業員の個人データが含まれます。HR向け従業員データとPDPAを参照してください。
新しい方針は公表前に弁護士が確認し、就業規則と整合させてください。HRが弁護士の確認を受けるべき場面もご覧ください。
8. チェックリスト
従業員向け
- 指示者、日付、時刻、明確な指示が見える形で会話を撮影した
- 開始時刻つきで了解し、納品時に終了時刻を伝えた
- 残業の承認をメッセージで求めた(上の文例を使用)
- ファイル、メール、通話履歴を保管した
- 自分の職位が第65条・第66条に本当に当たるか確認した
- 時間当たり賃金と残業代を1回ずつ計算した
- 証拠を携帯電話の外にもバックアップした
HR・使用者向け
- 通常勤務時間の告示と、書面の時間外指示方針がある
- 事前承認の残業申請書と、そのつどの同意の手順がある
- 実労働時間を記録し給与に反映するシステムがある
- 第65条・第66条の除外対象を職位ごとに確認した
- 職場外で働く従業員のための第23/1条の合意がある(該当する場合)
- 上司に時間外指示の出し方を研修した
関連ガイド
- 未払賃金と残業代 — 未払額の確認、期間制限、請求の手順
- 労働監督官か労働裁判所か — 手段の選び方
- 初めての労働裁判所ガイド — 初めて裁判所に行く前の準備
- 一時金による労働和解の確認 — 使用者が決着を持ちかけたとき
- HR向け従業員データとPDPA — 勤務記録とチャットの適切な保管
- HRが弁護士の確認を受けるべき場面 — 新しい方針を公表する前に
チャットでの指示も口頭の指示と同じ指示です。従業員は証拠を残して書面で承認を求め、使用者は紛争になる前に明確な方針と承認フローを整えてください。
当事務所は、証拠の確認と残業代の計算、時間外指示の方針、残業申請書、職場外勤務の合意書を、労働法に沿って整える支援をしています。初回相談をご希望の方は、+66 92 254 2045 までお電話いただくか、詳細をお送りください。あわせて労働法コンプライアンスと労働関連サービスもご覧ください。
本ガイドはスワンワラ法律事務所(コンケン県の法律事務所、1986年設立)が発行したものです。一般的な情報であり、特定の事項に関する法的助言ではありません。

