上司に会議室へ呼ばれ、すでに印字された退職届を目の前に置かれます。「今サインすれば穏便に辞められる。サインしなければ今日付けで解雇だ」。経歴に傷がつくこと、最後の給与が出なくなることを恐れて署名し、あとから自分が何をしたのかを考え始める方は少なくありません。
このガイドが扱うのは限られた問いです。署名した後に何ができるのか、そして「自分の意思で辞めた」場合と「辞めさせられた」場合を分ける証拠は何か。解雇された場合の一般的な権利は解雇されたらどうするか、解雇補償金の計算は解雇時の補償金をご覧ください。使用者が続けて別の和解書面を差し出してきた場合は、労働和解合意の署名前の確認点を参照してください。
結論
労働者が署名し、使用者に届いた退職届は、通常、労働者自身が契約を終了させたものとして扱われ、第118条の解雇補償金は生じません。しかし、使用者が雇用の終了を決め、退職届を形式として使ったことを立証できれば、事実関係は解雇と評価され、解雇補償金、予告手当、不当解雇の補償を請求できる可能性があります。また、署名が民法上の要件を満たす強迫によるものであれば、退職届は取り消すことができる場合があります。
法的根拠 労働者保護法B.E. 2541第118条は、「解雇」された労働者に勤続年数に応じた解雇補償金を認めています。第17条と第17/1条は、解雇予告と予告に代わる手当を定めています。労働裁判所設置及び労働事件手続法B.E. 2522第49条は、不当解雇について裁判所が補償または復職を命じることを認めています。民法の面では、民商法典第164条から第166条が強迫による意思表示を、第181条が取り消すことができる行為の取消期間を定めています。
当事務所の実務上の見解 この種の事件は、強いられたという感覚ではなく、署名の前後数日間の証拠で勝敗が決まります。裁判所は、誰が話を切り出したか、誰が退職届を作成したか、選択肢が示されたか、署名後に労働者が何をしたかを見ます。直ちに書面で異議を述べ、メッセージを保存した労働者は、何か月も黙っていた労働者より、通常は有利な立場にあります。書類を確認するまでは、結果を見通すことはできません。
仮の事例 プリさんは、コンケンの建材店で勤続4年、月給18,000バーツで働いています。金曜の午後、人事マネージャーのワンナさんがプリさんを呼び、印字済みの退職届を渡して言いました。「今日サインしなければ、明日、懲戒違反を理由とする解雇通知を出す」。プリさんは署名します。その晩、プリさんは部屋の外に座っていた同僚に、何か聞こえたかとメッセージで尋ねました。この事例をガイド全体で使います。
1. なぜ署名済みの退職届は労働者自身による契約終了とされるのか
退職は、労働者が一方的に契約を終了させる意思表示です。使用者に届いた時点で効力を生じ、原則として使用者の同意は要りません。その結果は次のとおりです。
- 「解雇」ではないため、第118条の解雇補償金は生じません。
- 使用者が契約を終了させたのではないため、使用者には予告に代わる手当の支払義務がありません。
- 退職届に「自発的であり、いかなる請求もしない」と書かれていれば、使用者はこの文言を根拠に紛争はないと主張します。
ただし、書面の題名は裁判所を拘束しません。実際に誰が契約を終わらせると決めたのか、そして労働者の意思が自由であったかを見ます。
2. どのような事実があれば使用者による解雇と見られるのか
次の事実は偽装解雇の主張を強めますが、単独で結論を決めるものではありません。
| 事実 | なぜ重要か |
|---|---|
| 使用者が「辞める」か「解雇される」かの選択を示した | 使用者がすでに契約終了を決めており、労働者は形式を選んだにすぎないことを示す |
| 使用者が退職届を作成し、日付を決めた | 文言と日付は使用者のものであり、労働者の発意ではない |
| 会議の場で即時の署名を求め、考える時間や助言を得る時間がなかった | 判断の自由度が下がる |
| 労働者がそれまで辞めたいと述べたことがない | 退職を説明する他の理由がない |
| 使用者がその職位の後任をすぐに採用した | 使用者が事前に計画していたことを示唆する |
| 労働者が短期間のうちに異議を述べ、または復帰を求めた | 自発的な退職とは整合しない |
注意点として、使用者は、あなたが転職のために退職を申し出た、または経歴を守るため自ら退職を選んだと主張することがあります。それもあなたの権利であるため、裁判所は証拠全体を見て判断します。
3. 圧力は、退職届を取り消せるものにする強迫にあたるか
民商法典第164条は、強迫による意思表示は取り消すことができると定めています。その強迫は、被害者に恐れる相当な理由を与えるほど重大かつ差し迫ったもので、その強迫がなければその行為をしなかったといえる場合に限られます。第165条は、通常の権利を行使すると告げることは強迫ではなく、敬意や畏敬から行動することも強迫のもとでの行動ではないと定めています。第166条は、強迫を行ったのが第三者であっても理由になるとしています。
労働の場面では、おおよそ次のように線が引かれます。
- 通常は強迫にあたらない 「本当に規則違反があったのなら、就業規則に従って懲戒する」と述べること。使用者にはそうする権利があるためです。
- あたる可能性がある 根拠のない刑事告訴や提訴をほのめかすこと、危害や晒し者にすることを告げること、部屋から出さないこと、署名するまで重要書類を預かること。
期間 第181条は、取り消すことができる行為は、追認できる時から1年を過ぎたとき、または行為の時から10年を過ぎたときは、取り消せなくなると定めています。これを主張するつもりなら、先延ばしにしないでください。証拠は薄れ、沈黙は状況を受け入れたという使用者の主張を助けます。
欺罔、たとえば使用者が、辞めれば一時金が出るという虚偽を告げた場合は、第159条の別の問題であり、個別の事実関係によります。
事例では、「署名しなければ明日、懲戒違反の解雇通知を出す」という発言は、使用者に実際の懲戒事由があるなら、通常の権利の行使とみなされるかもしれません。実際の事由がなく、プリさんを追い出すためだけに言ったのであれば、その事実自体が解雇の証拠となり、使用者が弁明するのは難しくなる可能性があります。
4. 気が変わったら退職を撤回できるか
一般原則として、使用者に届いた退職は、労働者が単独で撤回することはできず、使用者の同意が必要です。使用者が同意するなら、書面で確認を取ってください。拒否された場合、争うには、偽装解雇や強迫による意思表示などの別の根拠が必要であり、気が変わったというだけでは足りません。署名後の最初のメッセージが重要なのはそのためです(第6節参照)。状況を受け入れなかったことを示せるからです。
5. 「自己都合の退職」と「紛争」を分ける証拠
記憶が新しいうちにタイムラインを書き出してください。次の表はプリさんの経過に沿った例です。
| いつ | 誰が何を言い、何をしたか | 証拠 | 見ていた人 |
|---|---|---|---|
| 水曜 | 上司が口頭で「人事が話をする」と述べる | なし | 誰もいない |
| 木曜 | ワンナさんがLINEで金曜午後の面談を通知。議題の記載なし | LINEのスクリーンショット | 誰もいない |
| 金曜14:00 | 印字済みの退職届を渡される。「署名しなければ明日解雇通知」 | 退職届 | マネージャー、部屋の外の同僚 |
| 金曜14:20 | プリさんが署名し、社員証の即時返却を求められる | なし | 同僚 |
| 金曜19:00 | プリさんが人事に異議のメッセージを送る | 時刻入りのスクリーンショット | 誰もいない |
| 月曜 | 同じ職位の求人広告が出る | 広告のスクリーンショット | 誰もいない |
保存しておくもの:
- チャットの記録 LINE、メール、人事や上司へのメッセージ。特に「辞めるか解雇かを選べ」という趣旨のもの。一文だけでなく会話全体を保存し、日付、時刻、送信者名が分かるようにします。電話1台だけでなく別の場所にもバックアップを取ります。
- 面談の呼び出し 面談を設定したメールやメッセージ、件名、出席者、時刻。
- 退職届そのもの 誰が作成したか、元のファイルを誰が持っているか、日付が署名の日と一致するか、文言が自分のものか定型書式か、「いかなる請求もしない」とあるか。何かを返却する前に撮影してください。
- 証人 出来事を見聞きした人、直後に話した相手。氏名、役職、見たことを書き留めます。証人に圧力をかけないでください。在職中の証人はためらうことがあると理解してください。
- 業務書類 雇用契約、就業規則、警告の履歴、評価、給与明細。実際の懲戒事由があったかを確認するためです。業績の手続から退職の話になった場合は、業績改善計画(PIP)をご覧ください。
- 署名後の出来事 後任募集、システム権限の停止、物品返却の指示、最後の給与の支払い。
適法にアクセスできる資料だけを保管してください。他人のアカウント、メール、電話に許可なく入ってはいけません。コンピュータ犯罪法とPDPAに違反するおそれがあります。自分が当事者である会話の録音を裁判所がどの程度重視するかは、使う前に弁護士と相談すべき事項です。動画の公開や、使用者を晒し者にする投稿は決してしないでください。
6. 署名した直後にすべきこと
- 同じ日、遅くとも数日以内に、短い書面で異議を送る。 使用者が普段あなたとのやり取りに使っているLINEアカウントまたはメールを使います。文例:
人事 ワンナ様
...日の...時頃、会議室において、貴殿は、私が退職届に署名しなければ
翌日に解雇通知を出すと告げ、私が直ちに署名するよう、すでに印字された退職届を渡されました。
私はその圧力のために署名しました。自発的に退職したものではありません。
私はこれを退職とは認めず、会社が私に退職を求めたものと考えます。
署名した退職届の写しと、会社の理由を書面で送付してください。
私はいかなる権利も放棄しておりません。
プリ(本名) 日付 ...
- すべてのコピーを保管する。 退職届、規則、使用者から渡された書類を撮影し、個人のメールに送っておきます。
- これ以上何にも署名しない。 特に「全額受領」の領収書、権利放棄書、引継書。読んで、確認する時間を求めてください。これらの書面は残りの権利に影響し得ます。労働和解合意の署名前の確認点をご覧ください。
- 受け取る権利のある書類を求める。 在職証明書、直近の給与明細、終了日を確認する書面。
- 請求の経路を決める。 労働監督官への申立てと労働裁判所への提訴では、制約と期限が異なります。労働監督官か労働裁判所かと初めて労働裁判所に行くときを読み、申立ての前に助言を受けてください。
7. 偽装解雇だった場合、何を請求できるか
裁判所が使用者による契約終了と判断した場合、結果には次のものが含まれ得ます。
| 項目 | 根拠 | 備考 |
|---|---|---|
| 解雇補償金 | 第118条 | 勤続年数による。勤続120日から30日分、1年から90日分、3年から180日分、6年から240日分、10年から300日分、20年から400日分。第119条の例外あり |
| 予告に代わる手当 | 第17条、第17/1条 | 通常は賃金支払期間1回分。契約と支払サイクルによる |
| 不当解雇の補償 | 労働裁判所設置及び労働事件手続法 第49条 | 裁判所は勤続年数、苦境、解雇理由、使用者の財務状況を考慮する |
| 未払い賃金その他 | 契約と法律 | たとえば最後の給与期間、未消化の年次休暇(権利がある場合) |
事例では、プリさんは勤続4年、月給18,000バーツで、日額は600バーツです。第118条の180日分の解雇補償金は108,000バーツになります。使用者が、書面による警告後の再違反など第119条の事由を立証できれば、解雇補償金は支払われない可能性があります。実際の結果は証拠と裁判所の判断によるもので、この金額は結果の約束ではありません。
社会保障の失業給付 社会保障事務所は、退職した労働者と解雇された労働者を、支給率と支給期間で区別して扱い、失業者は期限内に失業者登録をする必要があります。本ガイドの作成にあたり、社会保障事務所のウェブサイトで最新の数字を確認できていないため、率は記載しません。社会保障事務所またはホットライン1506でご確認ください。知っておくべき点として、使用者が提出する雇用終了の報告書に書かれた理由が、審査に影響することがあります。事実と異なる場合は、書面で異議を述べ、写しを保管してください。
8. 人事担当者へ:退職強要の請求を生まない退職面談の進め方
使用者が従業員に辞めてほしい場合、退職届への署名を迫ることは見かけ以上に危険です。正当な理由のない解雇とみなされ、解雇補償金と補償の両方を負うおそれがあるからです。より安全な進め方は次のとおりです。
- まず何であるかを決める。 会社が雇用を終わらせるのなら、理由のある解雇として扱い、法定の金額を支払います。従業員が辞めたいのなら、従業員から切り出させ、本人に書かせます。
- 圧力のかかる選択をさせない。 少なくとも1営業日から2営業日の猶予を与え、助言を受けてよいと伝え、面談の場での署名を求めません。
- 従業員本人に書かせる。 少なくとも日付と文言は本人が決められるようにし、権利放棄を含む会社作成の書式は使いません。
- 権利を超えて脅さない。 たとえば根拠のない刑事告訴です。実際の懲戒事由があるなら就業規則の手続によります。懲戒調査中の停職をご覧ください。
- 合意退職とする場合は、 支払う金額を明記した書面の合意にし、従業員に読む時間を与えます。労働和解合意をご覧ください。
- 面談を記録する。 面談のメモ、出席者、理由を、事実に即して記します。
当事務所の人事書類・就業規則サービスもご覧ください。
9. チェックリスト
署名した直後
- 記憶が新しいうちに、第5節の表のようにタイムラインを書く
- 使用者に短い書面で異議を送り、送信の証拠を保管する
- 署名した退職届を撮影するか写しを入手する
- 読んで助言を受けるまで、これ以上何にも署名しない
証拠
- LINEの会話全体、メール、面談の呼び出しをバックアップする
- 証人の氏名と連絡先を書き留める
- 雇用契約、就業規則、警告の履歴、給与明細を保管する
- 後任募集など、署名後の出来事を記録する
経路と期間
- 労働監督官か労働裁判所かを選ぶ
- 強迫を主張する場合の第181条の取消期間を含め、関係する期間を数える
- 失業給付を確認し、期限内に失業者登録をする
関連ガイド
- 解雇されたらどうするか — 労働者の権利と期限の概要
- 解雇時の補償金 — 解雇補償金と関連金額の計算
- 初めて労働裁判所に行くとき — 調停と審理の流れ
- 労働監督官か労働裁判所か — 請求の経路の選び方
- 労働和解合意の署名前の確認点 — 領収書や権利放棄書に署名する前に
- 業績改善計画(PIP) — 退職が業績の問題から始まった場合
署名済みの退職届がすべての権利を自動的に消すわけではありませんが、結果は、何が起きたか、そして署名後に何をしたかを立証できるかによります。
当事務所は、退職届と証拠の確認、タイムラインの作成、異議申立書の起案、労働監督官と労働裁判所のどちらを選ぶかの検討をお手伝いします。使用者の方には、紛争を生まない退職手続の設計をお手伝いします。初回相談をご希望の方は、+66 92 254 2045 までお電話いただくか、詳細をお送りください。あわせて労働法の紛争と相談と人事書類・就業規則もご覧ください。
本ガイドはスワンワラ法律事務所(コンケン県の法律事務所、1986年設立)が発行したものです。一般的な情報であり、特定の事項に関する法的助言ではありません。

