初めて予算を作るとき、前年の数字を開いて売上を10パーセントほど上乗せし、経費を少し削って、きれいな利益を出す経営者は少なくありません。ところが年末には売上が計画どおりにならず、計画外の費用が出て、損益計算書は黒字なのに預金残高が苦しくなります。
本ガイドは、実際の顧客から売上を積み上げる段階から毎月の実績比較まで、初回の予算づくりを7つの手順で説明します。サービス業の仮想例、数字を意思決定に使う方法、費用を前もって固定する契約の注意点も扱います。
結論
使える予算は、数えられるものから始めます。顧客リスト、実際に提供できる仕事量、価格、すでに拘束されている契約です。「こうなればよい」という成長率から始めません。次に変動費、固定費、設備投資を分け、資金予算を別に作ります。顧客の支払いは販売より遅れ、税金には独自の周期があるからです。最後に項目ごとの責任者と承認限度額を決め、差異がどれだけなら説明が必要かという基準を置いて、毎月実績を予算と比べます。
法的ルール 一般的なSMEに、独立した年間予算の作成を義務づける規定は確認できませんでした。必要なのは会計期間ごとの実際の帳簿と財務諸表です。予算は管理ツールですが、賃貸借契約、最低購入条項、利用契約、顧客への支払条件など、予算の多くの部分が法律と直接関わります。これらは年が始まる前に予算の数字を固定してしまいます。
当事務所の実務的な見方 よい予算とは、数字がずれ始めた月に経営者が素早く判断できる書類です。作って引き出しにしまう書類ではありません。迷うなら、年に一度しか開かない詳細な予算より、簡単でも毎月比較できる予算を選んでください。
1. 「前年プラス10パーセント」の予算が使えない理由
増えた分がどの顧客によるのか答えられません。売上の4分の1を占める大口顧客が1社やめれば、10パーセントという数字は何の助けにもなりません。増えた仕事をこなす人や設備があるかも問いません。費用も同じ率で上乗せされがちですが、契約で上がっていく拘束的なものと、選べるものが混在しています。
よりよい方法は積み上げです。まず一覧、数量、価格を置き、それから合計を出します。成長率は検証できる結果であり、出発点の仮定ではありません。
2. 手順1 顧客と対応能力から売上を見積もる
- 顧客または顧客グループを一覧にする。 契約済みの継続顧客、プロジェクト顧客、スポットまたは時間単位の顧客に分けます。確実性が違うためです。
- 数量に価格を掛ける。 例えば更新する顧客数に月額料金を掛ける、案件数に平均案件単価を掛けるといった形です。前年の実績があればそれを使い、なければ提出済み見積書と、期待ではなく実際の受注率を使います。
- 確度を分ける。 契約済みは全額、見積中は過去の受注率、買い手の裏づけがない部分は別枠の挑戦目標とします。
- 対応能力を確認する。 売上に必要な時間を、実際に販売できる時間と比べます。総労働時間ではありません。会議、休暇、研修、社内業務を差し引く必要があります。売上が能力を超えるなら、増員や外注の費用を予算に入れるか、売上を下げます。
3. 手順2 変動費
変動費は売上や数量に応じて増減します。仕入商品、原材料、運送費、歩合、決済手数料、案件ごとの外注費などです。実際の発生実績に基づき、単位あたりの額または売上に対する割合で置きます。
売上から変動費を引いた額が貢献利益です。固定費を支払うために残る資金で、後述の例で損益分岐点を求めるときに使います。
4. 手順3 固定費
固定費は売上が減っても発生します。常勤の給与と事業主負担の上乗せ、家賃、基本的な光熱通信費、ソフトの利用料、記帳・監査費用、保険、定例的な広告費などです。判断しやすいよう3つに分けます。
| 区分 | 例 | どのくらい早く減らせるか |
|---|---|---|
| 契約で拘束 | 家賃、年間利用契約、分割払い | 契約が解約可能な時点まで減らせない。条件を確認する |
| 人で拘束 | 給与、常勤の賃金 | 時間がかかり、雇用終了には法的コストもある |
| 自分で決められる | 広告、研修、接待、計画外の事務用品 | 翌月に延期または削減できる |
経営者や株主が会社で働いている場合は、実際に支払うつもりの額で給与を入れてください。ゼロにして後から配当で取るやり方は、予算上の利益を実態より良く見せます。経営者が引き出す資金も会社の資金と適切に分ける必要があります。オーナーの給与・配当・立替金・株主貸付を参照してください。
5. 手順4 設備投資と減価償却
設備投資は、パソコン、工具、機械、車両、内装など、数年にわたり使う資産への支出です。次の2つの理由で別の表にします。
- 損益計算書では、これらの資産は購入した年に全額が費用になるわけではなく、耐用年数にわたり減価償却として配分されます。
- 資金予算では、支払日に全額が出ていきます。現金で買えば預金残高はすぐに減ります。
設備投資を通常の経費に混ぜると利益が低く見えすぎ、判断を誤ります。どこにも載せなければ、誰も気づかないうちに現金が消えます。償却の認識方法と税務上の率は、経理担当者または税理士と決めてください。後述の例では、仮定した耐用年数で毎年同額を償却します。
6. 手順5 資金を利益と別に見る
帳簿上の利益は販売または提供の時点で計上されますが、現金は顧客が支払うときに入ります。30日の信用を与えれば、1月の売上は2月の現金になります。成長が速いほど、売掛金に固定される資金が増えます。黒字なのに資金が足りなくなる主な原因です。黒字なのに資金が足りないを参照してください。
簡易な月次の資金予算は次の順で作ります。
- 月初の現金
- 入金予定を加える。販売日ではなく請求書の支払期日で見る
- 仕入先や債権者への支払いを引く。実際に受けている信用期間に従う
- 支払った月の設備投資を引く
- 周期に従う税金と納付を引く。付加価値税の納付純額、源泉徴収税、社会保険料、期日が来た法人所得税
- 月末の現金を、設定した最低現金水準と比べる
税金についての注記です。顧客から預かる付加価値税は会社の収益ではありません。予算は付加価値税抜きの数字で作り、納付純額を資金予算に入れます。各税の申告期日と税率は、通達で変わる可能性があるため、必ず歳入局または経理担当者に確認してください。本ガイドは固定の日付を示していません。
7. 手順6 予算責任者と承認限度額
責任者のいない予算は、超過したときに誰も答えない予算です。次のように設定します。
- 各項目またはカテゴリーに予算責任者を1人置きます。営業部長は売上と歩合、業務部長は変動費と外注、経営陣は家賃と継続契約を担当する、といった形です。
- 承認限度額を決めます。予算内なら誰が自分で支出できるか、予算超過や合意額超過では誰に申請するか、会社のオーナーが常に承認する項目(数か月に及ぶ契約、設備投資など)は何かです。
- 会社の権限表と連動させます。オーナーがすべて承認する会社の権限委譲表を参照してください。
8. 手順7 毎月の予算実績対比と差異の基準
前月の締めが終わったら、毎月カテゴリーごとに、予算、実績、差異、理由の表を作ります。下の基準はSME向けの提案で、事業の規模に合わせて調整してください。
| 項目 | 説明が必要な基準(仮想例) |
|---|---|
| 売上合計 | 予算を5パーセント超下回る状態が2か月連続 |
| 各経費カテゴリー | 差異が10パーセント超かつ1万バーツ超 |
| 設備投資 | 計画にない案件はすべて、支払い前に承認を受ける |
| 月末の現金 | 設定した最低現金水準を下回る |
| 延滞売掛金 | 合意した割合を超える。例えば売掛金全体の5分の1 |
差異が出たら、順に3つ問います。数量が違ったのか、価格が違ったのか、時期の問題なのか。答えによって取るべき判断が変わります。結果は月次会議に持ち込みます。月次経営会議を参照してください。
9. 仮想例 SME向けIT保守サービス業
この節の数字はすべて、考え方を説明するための仮想例です。特定の会社のデータでも業界標準でもありません。金額はバーツ、付加価値税抜きです。
手順1 顧客からの売上(仮想例)
| 顧客グループ | 数量 | 価格 | 年間売上 |
|---|---|---|---|
| 月額保守契約 | 12社 x 12か月 | 1社1か月あたり15,000 | 2,160,000 |
| 導入プロジェクト | 10件 | 1件あたり80,000 | 800,000 |
| 時間単位の作業 | 300時間 | 1時間あたり1,000 | 300,000 |
| 合計 | 3,260,000 |
対応能力の確認(仮想例) 技術者3人が月160時間ずつで、年5,760時間です。販売可能時間を60パーセントまでとすると3,456時間になります。必要な仕事は、月額保守が1,152時間(1社1か月8時間)、プロジェクトが1,000時間(1件100時間)、時間単位が300時間で、合計2,452時間、上限の約71パーセントです。対応は可能ですが、余裕は大きくありません。
手順2から4 費用と支出(仮想例)
| 項目 | 算出 | 年額 |
|---|---|---|
| 変動費 転売するライセンスとクラウド | 売上の10パーセント | 326,000 |
| 貢献利益 | 3,260,000 引く 326,000 | 2,934,000 |
| 技術者3人の給与 | 28,000 x 3 x 12 | 1,008,000 |
| 事務・営業1人の給与 | 22,000 x 12 | 264,000 |
| 常勤オーナーの給与 | 40,000 x 12 | 480,000 |
| 事業主負担と福利厚生 | 給与の5パーセントと仮定 | 87,600 |
| オフィス家賃 | 18,000 x 12 | 216,000 |
| ソフトの利用料 | 6,000 x 12 | 72,000 |
| 通信費 | 4,000 x 12 | 48,000 |
| 記帳・監査 | 5,000 x 12 | 60,000 |
| 広告 | 5,000 x 12 | 60,000 |
| 保険・雑費 | 2,000 x 12 | 24,000 |
| 固定費合計 | 2,319,600 | |
| 減価償却 | 設備300,000を5年で定額 | 60,000 |
| 税引前営業利益 | 2,934,000 引く 2,319,600 引く 60,000 | 554,400 |
営業利益は売上の約17パーセントです。損益分岐点は(2,319,600 足す 60,000)を0.90で割った値で、売上約2,644,000バーツです。計画売上はこれを約19パーセント上回っており、ある程度の売上減は吸収できます。
手順5 初年度の資金(仮想例) 会社は期首に売掛金がなく、期初に設備300,000バーツを現金で購入し、顧客への信用期間は平均35日とします。期末の売掛金は、3,260,000を365で割って35を掛けた約313,000バーツです。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 税引前営業利益 | 554,400 |
| 減価償却を戻す(現金支出ではない) | 60,000 |
| 売掛金の増加を引く | (313,000) |
| 設備購入を引く | (300,000) |
| 法人所得税・配当・借入前の残り現金 | 1,400 |
この例では、帳簿上の利益は554,400バーツなのに、手元の現金はほとんど残りません。オーナーが配当を望む場合や、会社が法人所得税を払う場合には、予備資金か与信枠が必要です。この例の最低現金水準は、月間固定費の約1.5倍(2,319,600を12で割ると約193,300)で、およそ290,000バーツです。
手順6と7 責任者と基準(仮想例) 営業部長が売上と売掛金、業務部長が変動費と時間、オーナーが設備投資と6か月を超える拘束を承認します。差異の基準は前節の表のとおりです。
10. 予算が引き起こす意思決定
仮想例を続けます。数字はすべて仮想です。
| 判断 | 予算が示す条件 | 仮想例 |
|---|---|---|
| 採用 | 実際の稼働が上限の85パーセントを2か月連続で超え、受け皿となる仕事がある | 4人目の技術者は年間約28,000 x 12 x 1.05 = 352,800。損益分岐には約352,800 割る 0.90 = 392,000の売上増が必要 |
| 価格変更 | 人件費に比べ、1時間あたりの貢献利益が低い | 月額を15,000から16,500にすると、顧客が全員残れば年216,000増える。1社失っても11社 x 16,500 x 12 = 2,178,000で、従来の2,160,000を約18,000上回る(失った顧客の変動費は未控除) |
| 経費削減 | 現金が最低水準を2か月連続で下回る | 契約で拘束された項目ではなく、広告の年60,000など自分で決められる項目から着手 |
| 設備投資の延期 | 納税前や、売掛金が積み上がる期初に現金が不足 | 検証機材100,000を第3四半期に延ばし、期初の資金負担を軽くする |
原則は、資金が尽きてから判断するのではなく、事前に書いた基準と判断を結びつけることです。
11. 費用を固定する契約 署名前に見る法的な視点
固定費の多くは契約に由来します。署名前に、月額だけでなく契約期間全体の負担を予算に入れてください。
- オフィスや店舗の賃貸借契約。 期間、賃料増額、敷金、更新、中途解約の違約金を確認します。民商法典第538条により、期間が3年を超える不動産賃貸借は書面で作成し所管の職員に登録する必要があり、そうでなければ3年分しか強制できません。内装に多額を投じる賃借人は、登録を重視するか、契約終了時の補償を交渉すべきです。読むべき条件の例は既製工場の賃貸借を参照してください。
- 最低購入条項。 供給者が年間の最低購入数量を求め、不足分の支払いを求めることがあります。売上が落ちても、予算はその最低額を負担しなければなりません。
- 利用契約。 自動更新で、解約には事前通知が必要なことが多くあります。通知期限をカレンダーに入れてください。ソフトウェア利用契約を参照してください。
- 顧客の支払条件。 信用期間と回収手順を契約や見積書で明確にします。資金予算に直結するためです。顧客の未払い請求を参照してください。
- 関係者との契約。 取締役所有の物件の賃借などは、条件と承認を明確にする必要があります。取締役との賃貸借・売買の承認を参照してください。
これらはすべて、個々の契約の文言によります。会社にとって総負担が重要な場合は、署名前に法律に詳しい者に読ませてください。
12. よくある間違い
- 「前年に何パーセントか足す」予算にする。 売上の根拠がなく、対応能力も確認していない
- 設備投資を通常の経費に混ぜる。 利益が歪むか、現金の流出が隠れる
- 資金の視点がない。 利益だけを見て、顧客の支払い遅れと税金の周期を忘れる
- 期待で売上を置く。 契約のない顧客を全額で入れる
- 拘束された契約を忘れる。 自動更新、最低購入、毎年上がる家賃など
- 予算責任者がいない。 差異を誰も説明しない
- 作っても比較しない。 予算が一度しか開かれない
- オーナー自身の報酬を入れない。 利益を過大に見せ、配当判断を誤らせる
13. チェックリスト
- 顧客または顧客グループの一覧と、数量、価格、確度
- 予算上の売上に対する対応能力の確認
- 変動費、固定費、設備投資を別の表に分けた
- 減価償却と損益分岐点を計算した
- 入金と支払いの期日に沿い、税の周期を含めた月次資金予算
- 許容できる最低現金水準の設定
- すべてのカテゴリーに予算責任者と承認限度額
- 差異の基準と、予算実績対比の月次会議の日程
- 費用を固定する契約を、更新日と解約通知日とともに収集
- 数字を判断に使う前に、償却と税務の扱いを経理担当者が確認
関連ガイド
- 黒字なのに資金が足りない — 利益と資金が食い違うとき
- オーナーがすべて承認する会社の権限委譲表 — 予算責任者の承認限度額を決める
- 月次経営会議 — 予算実績対比の表を議題にする場
- 顧客の未払い請求 — 入金が予算より遅れたとき
- 会社設立後1年目の会計 — 経理担当者がオーナーに求めるもの
- 単発案件から月額の継続収益へ — 売上の確実性を高める
使える予算は、実在の顧客と対応能力から作り、設備投資を経費と分け、資金を利益と別に見て、予算責任者と事前に合意した基準のもとで、毎月実績と比べるものです。
当事務所は、会社の費用を固定する賃貸借契約、最低購入条項、利用契約の確認、顧客との支払条件の整備、予算に沿った承認権限の設計を支援しています。お電話は +66 92 254 2045、または詳細をお送りください。あわせて事業計画サービスと会計・税務サービスもご覧ください。
本ガイドはスワンワラ法律事務所(コンケン県の法律事務所、1986年設立)が発行したものです。一般的な情報であり、特定の事項に関する法的助言ではありません。

